さて、子どもが「健康で思いやりがあり、何でも自分一人でできる子」に育てたいということは、全てのご父母の願いでしょう。しかし、最近の調査によると、80〜100万人の若者が現在引きこもってしまっているという恐ろしい数字があります。一体なぜ、このような状況が出てきてしまったのでしょうか。その答えは、子育てをする中で、ご父母が「自立させる時期」があることに気付かなかったために他なりません。
乳幼児の成長の過程を大きく分けると、次のように考えられます。
(1)おっぱい、おんぶ、だっこ時代 (0才〜2才位)
(2)親子ふれあいの時代 (2才〜3才位)
(3)一人立ちと話し合いの時代 (3才〜6才位)
「母乳と背中から愛情が伝わる」と昔は言いましたが、最近は昔ながらのおんぶ姿をほとんど見かけません。おんぶは、お母さんも仕事ができますし、子どももお母さんと同一方向を見つめ、お母さんの仕事ぶりから色々なことを学習できるというメリットがありました。そして、おんぶやだっこは、子どもの心を安定させて、親子の基本的信頼感をしっかり獲得させることができるので、とても大切です。
「親子ふれあいの時代」には、子ども達は積み木などで一人遊びを始めますが、ご父母も一緒になってその遊びを楽しんでみたり、絵本なども静かに読んでやる時間を持ちましょう。時々は「たかいたかい」「お馬さんごっこ」「いないいないばあ」等のふれあい遊びもとり入れて、テレビを視聴する時間はなるべく少なくしたいものです。このような生活が子ども達の言葉を豊かにし、心の発達を促していきます。
そして、「一人立ちと話し合いの時代」は最も気をつけなければなりません。親鶏がひよこを育てるのを注意深く観察すると、生まれて40日位までは、ひよこが寒そうな時には、親鶏は「コ・コ・コ・コ・コ!」と鳴きながらひよこ達をみんなお腹の下の温かい所へ集めます。親鶏がエサを見つけると、自分は食べないで食べやすいようにしてやって、ひよこ達に与えます。ところが、生後50日を過ぎる頃になると、エサは自分で見つけて食べさせるようになり、もうお腹の下の温かい所へも入れなくなります。ニワトリに限らず、動物界のあらゆる親は、生まれてしばらくの間は献身的な世話を続けますが、ある時期を迎えると、巣立ちや親離れをさせて一切世話をしなくなり、威嚇(いかく)までして巣から追い出そうとします。動物たちは本能的にいくらかわいくても一人立ちさせることが大きな愛情であり、子育ての目標であることを知っているのです。
しかし、育児経験の少ない人は、往々にしていつまでも手をかけて、子どもが「お母さん、お母さん!」と離れないのが愛情の表れでもあるかのように勘違いしていることが多く、結果的にお子さん達には次のような傾向があります。
@いつまでもお母さんと離れられない Aお母さんがいないと遊べない
B友だちの中に入っていけない C知らない人には返事や挨拶ができない
幼児は3才がだいたい一人立ちの時期です。いつまでも自立できないこの傾向を過保護といいます。保護することも大切ですが、「過ぎたるはなお及ばざるが如し」の通りで、子どもの成長は遅くなります。この傾向は、長男、長女、末っ子、年寄りっ子、一人っ子といわれる中に現れやすいものです。このような子がみんなそうとは限りませんが、そのようになりやすいので注意する必要があるという意味です。今の時代、「自分の子育ては普通」と思っていると、自然と過保護に陥っていることも多いので気をつけましょう。
自分の子育てがこれで良いかどうかを反省することは、大変難しいことです。そのことは例えれば、自分の顔についた墨のようなもので、自分では分からなくても、他人に教えられたり鏡を見て初めて分かったりすることと同じです。親というのは、幼い子ども達にとって、あまりにも大きくて強い存在です。親としての自分の存在を正しく自覚して、子育ての目標である「将来自立できる人間」に育てるためのしつけを考えられる、お父さんお母さんになってほしいと思っています。
浦和つくし幼稚園 園長 秋本 勇次