今日の子ども達は、「あと少しのところであきらめてしまう」「何をするにも自信がない」など、たくましさに欠けた「心の弱い子」が増えていると言われます。その背景は色々と考えられますが、まず第一に現在の日本では、ごく当たり前だった子育てができていないような気がします。親は、子どもはみんなかわいいものです。しかし、かわいいけれども、「叱るべきときは、しっかり叱ること」、「ほめるときは、しっかりほめること」といったしつけの基本的なことがうまくできない親が多いように感じます。
子どもを王子様やお姫様扱いすることを、「プリンス・プリンセス症候群」と言います。例えば、公園に行った時、子どもが高いジャングルジムに上ろうとすると、「これは危ないからダメ!」「こっちのすべり台の方がいいよ!」と指示したり、石につまずいて転んで泣くと、一目散にかけ寄り、「大丈夫!ケガはない!」と起こしに行く―――明らかにケガをしたような場合は別として、子どもが自分で立ち上がるまで様子を見ながら、立ち上がった時に「えらいね!大丈夫だね!」とほめてやるのが良いでしょう。―――また、熱を出して病院に来た小学生なども、医者に質問されたことや様子を話すのは母親のことが多いとも聞きます。
そして、何事にも「ゆとり」を失った親が増えているようで、早く良い子に育てようと急ぎすぎています。しかし、「それはダメ!」「ああしなさい」「こうしなさい」と常に指示命令型の子育てをしていると、子どもが自分の力で判断し、結論を出す機会を失ってしまい、自分では何も決断できない「心の弱い子」になってしまいます。
子育ての基本は、子ども達の行動や活動について見守り、「待つこと」にあります。子どもには子どもの時間があり、子どもの世界がありますので、できる限り保障してやることが大切です。常に上から目線の指示命令型のお母さんは、子どもが言うことを聞く時は良いのですが、万一聞かない場合には「あなたなんか知らないよ」とか「もうお母さんは知らないから!」とつき放し、放置する傾向があります。子ども達はそんなふうにはなりたくないので、常にお母さんの顔色を窺うようになり、時にはお母さんの気持ちに合わせようと、ウソをついてしまうことにもなり兼ねません。もう少し、子どもの心に寄り添った子育てが必要です。
「心の弱い子」が増えている原因として、子ども達の自己肯定感が低いこともあげられます。自己肯定感とは「自分は今の自分でいいんだ」と自分を認める気持ちですが、一体なぜこの気持ちが低いのでしょうか。
一般に子どもは、自分で自分の良いところを見つけ出すのは難しいもの…。大人にほめてもらって初めて、自分の良さが分かることも多いのです。そこで、今日の一日を振り返ってみて下さい。子どもをほめた回数と叱った回数のどちらが多かったでしょう。きっと叱った回数の方が多かったと思います。もちろん、叱るべき時にはきちんと叱らなければなりませんが、「ほめ上手は、子育て上手」とも言われます。「よく頑張ったね」「よくできたね」など、ほめる時には心からのメッセージを添えてほめてやり、しっかり認めてやることが大切で、そのような生活を通して自己肯定感が生まれてきます。
また、「子どもは親の鏡」との言葉もあります。「心の弱い子」が増えている背景には、「心の弱い親」が増えていることがあると思います。親の生活への不満や不安感とか教育への自信のなさが、子どもに投影されます。もう一度、家庭生活や夫婦関係を見つめ直すことも必要です。週に1回でもいいので、子どものことや夫婦お互いのよかったことや感謝したことを出し合うのも良いことでしょう。そして、家庭内が優しく温かく、お互いをいたわり合う言葉で満たされるならば、おのずと子ども達は「心の強いたくましい子」に育ちますので、親として、しっかり心して生活したいものです。
浦和つくし幼稚園園長 秋本勇次